実のところ、僕は30年にわたり腰痛に悩まされ続けてきました。
痛みというものは主観的なものですから、その苦しさに共感してもらうのはとても難しいですよね。
自分としてはとても痛くてつらいのに、経験がない人にとっては笑い話のように聴こえるらしく、薄笑いを浮かべてとても適当な感じで「大変ですよねー」と言う人もいました。
くっそー! 今、思い返してもとても悔しいです。
僕は30年前に椎間板ヘルニアという診断を受けて手術をしました。
当時の手術は、腰部を切り開く大掛かりなもの。1ヶ月の入院、更に自宅療養と、会社をほぼ3ヶ月も休まなければなりませんでした。それまで若さに任せて暴力的に仕事してきましたので、とうとう肉体が悲鳴をあげたのだと思います。
手術後は比較的順調に過ごしてきましたが、今から5年ほど前に再発。
そこから有名医師を探して渡り歩きました。
テレビで「腰痛の名医」と紹介されているのを見ればすぐに外来診療を受け、本を読んで情報を集めたり。きっとどこかにこの痛みを魔法のように治してくれる人がいる、と思って探しました。
ところが、マスコミで盛んに喧伝されている医師を訪問しても、痛み止めを処方され「様子をみましょう」と言われるばかり。どこに行っても、私の腰痛は一向に改善しませんでした。
でも、たったひとりだけ「信頼できる」と思えた医師がいました。
これまでの医師とこの医師と検査も診断もすべて同じでした。MRI、椎間板ヘルニアの指摘。では何が違ったのでしょうか?
診断後の治療・処置が、これまでの医師とは違っていました。
そのやりとりを、思い返して再現してみます。
医師「櫻堂さん。画像で椎間板ヘルニアが確認できましたが、それほどひどいわけではありません。もっと状態がひどい人でも、痛みのない人はいます。」
私「そうですか。でも痛みはつづいているのです。それでは、これからどのようにすればよいのでしょうか?」
医師「わかりません。痛み止めの薬はありますが…」
そう応えつつも、痛み止めの使用を推奨していないのが明らかにわかりました。
「どうしても痛くて我慢できない場合は、神経を麻痺させるブロック注射がありますが、これも一時的なものです。」との言葉の後に、最悪の場合は手術がありますとの説明がありましたが、要するにその結論は「なにも対処の方法がない」ということ。
私はこの医師を信頼しました。
助けを求めている患者に対して「なにもできることがありません」という言葉を口にするのは、非常に勇気がいることです。それは同時にとても真摯な態度です。そこには傲慢さのかけらもなく、ごまかしもありません。
痛み止めを処方したり、ブロック注射を勧めるのは簡単なことです。
しかし、その処置が根本的な問題解決になることなくむしろ肉体に副作用を与え、その働きを悪くしてしまうのだとしたらどうでしょう?
◆ああ恥ずかしい!
専門家はとかく素人に対して「わかりません」という答えを避けがちです。その言葉が「信頼を失墜させる」と考えるからです。
しかし本当にわからない場合、「わからない」という言葉はごまかしのない言葉として、患者の胸を打ちます。本当に信頼できる医師はその時役に立たない薬を乱用したりはせず、現時点での医療の限界も十分に理解した上でアドバイスをするでしょう。
わからないときには「わからない」と口にし、その不安定さや曖昧さのなかで対峙することこそが真摯な姿勢である。こんなことを感じた一瞬でした。
だから、何かを問われてもしそれがわからなかったら、決して取り繕うことなく「わからない」と答えて欲しい。そう口に出すことを、恐れないで欲しいと思います。
この社会や自らが関係する会社のなかで、知らないことがあるのは恥だと思っている人も多いように感じます。しかし実は知ったかぶりしている方がもっと恥ずかしい。そしてこのことを決して忘れないようにしたい。
だって、バレた時には大恥ですものね!