透析医療の組織論

今回は、リーダーが指し示す方針によって、成果の考え方が異なり、その結果サービス

が良くも悪くもなるという事をお話しします。

それだけ、リーダーが組織に与える影響が大きいという事です。

レストランの物語

あるとき、時々利用するイタリアンレストランのオーナーと話をする機会がありました。

 

私の悪いクセというか、コンサルタント、研究者という立場から直ぐに質問を始め

てしまうのは習性でしょうか。

このレストランは、長い事同じ場所でレストラン業を営んでいて、ひいきのお客

さんが常時利用しているというお店でした。

 

オーナーと話をしているうちに、どんなビジネスでも基本は同じだと思いました。

 

よもやま話の果てに、私は突然「客数が大事なのか?それとも常連客が大事なの

か?」という質問をしました。

「ところで、オーナーはどういう考え方なの?」と私が問いかけると、

 

「私は完全に専門店指向です。従って、出来るだけ顧客を絞り込み、

 

最高の質の料理とワインそしてサービスを提供するように心がけます。

 

馴染みのお客さんを増やしたいと考えています。

 

確かに顧客の数が増えるのは嬉しいのですが、

 

結局サービスの質を落とさざるを得ません。

 

常連さんに迷惑をかけてしまいます。

 

一時、スタッフ数を増やしました。

 

美人の女性スタッフを入れたところ、新しいお客さんの数が増えました。

 

その結果、客数は急速に増えたのです。

 

そのときは、店始まって以来の盛況で売り上げも信じられないくらい伸びました。

 

しかし、長くは続きませんでした。

 

お客さんの数が頭打ちになってきたのです。

 

冷静になってよく考えて見ると、むやみやたらと売り上げの増加だけを目指して、

 

顧客のサービスが落ちてきていたのです。

 

本当は、あれもやってあげたい、これもやってあげたい、

 

しかし多くのお客さんがつめかけ、充分にサービスを提供できていない。

 

面倒な料理は省こうとする。メニューにまで影響がでてくる。

 

これは、私の本意ではないと考え始めました。

 

そして、マネージャーとしては非常に悩みました。

 

売り上げが上がる事はお店の成長を意味します。

 

売り上げが上がれば、職員の給料を上げる事が出来る。

 

新しいスタッフを雇う事も出来る。

果たして、売り上げを放棄することが正しい事なのか?

 

目の前の売り上げをみすみす逃す事が、

 

マネージャーの姿勢としてどうなんだろうかと。

 

しかし、彼はこういいました。

HiRes

 

基本に戻り、それに従う

 

「私は決断しました。基本的な自分の立ち位置を決めて、それに従う事にしました。

 

いや、一般的には私の選択は間違っているかもしれません。

 

しかし、どうやら私にはそれが合っているようなのです」

 

これを聞いて私は「ウーン」と唸ってしまいました。

 

それと同時にオーナーの決断に共感したのです。

 

経営者はひとたび経営の道に入ると、成長と拡大を目指し始めます。

 

特段そこに理由などないのです。多くは、経営者の本能とも言えるべき習性です。

 

しかし、その経営本能に抗うことがどれだけの決断か、恐らくあなたならわかると思います。

 

そして、自らの習性に立ち向かうというのは、

 

知的レベルの高い人ではないと出来ない芸当です。

 

つまり、このオーナーは売り上げ至上主義を捨て、自らの原点である

理念に立ち返ったのです。

 

永遠の成長を追い求める愚かさ

よく考えてみてください。永遠の成長があるでしょうか?あり得ません。

 

それでは、どうするのか?という答えを考えるきっかけとして、

 

先ほどのレストランオーナーのエピソードをもう一度考えてみてください。

 

これまではスピード経営と言われてきました。

 

つまり、だれよりも早くだれよりも大きくなることが経営の目標だったのです。

 

しかし、それで皆幸せだったのでしょうか?

 

あるとき、私は日本有数の透析施設を訪問しました。

 

その病院は透析の患者数が500人以上と聞いていました。

 

非常に立派な病院で、正に建物と設備にお金をかけているという病院でした。

 

理事長とお会いし、ひとしきりお話をした後で、透析フロアを見学しました。

 

その時の光景を今でも忘れる事が出来ません。

 

非常に立派な建物なのに、透析部門ではベッドがそれこそ所狭しと並べられて、

 

環境もへったくれもありません。正直古い、汚い。リフォームしていない。

 

そして、それこそここは工場か?と目を覆うような光景でした。

 

その理事長は地域でも高額納税者として、有名だということでした。

 

この情景を目の当たりにして、私の理事長に対する尊敬の念は一瞬にして消えてなくなりました。

 

あなたは、このケースを聞いてどう考えますか?

 

患者数を500名も擁している医療機関だから立派でしょうか?確かにそういう考え方もありますね。

 

それでは、規模が大きければ良いのでしょうか?

 

もし、あなたが今の理事長の立場なら、どうしますか?

 

そして、私がいぶかったのは何故だと思いますか?

 

理事長が目指した物は何でしょうか?

 

つまり、古い成長モデルに従うととにかく売り上げの拡大と利益の拡大です。

 

売り上げを拡大するためには、とにかく出来るだけ多くの患者を確保する。

 

そして利益を上げるためには、限られた面積にたくさんの患者を詰め込む事が必要です。

 

言い換えれば効率化です。

 

そして、そこには徹底して金をかけないという方針です。

 

そうすることにより、始めて利益を産み出すことが出来るのです。

 

どんなに良い医療をやっても金が儲からなければしょうがない。

 

綺麗ごとではなく、利益こそが重要、利益を上げるのはマネジメントとしての責務です。

 

彼はそれに忠実に従った。何も間違っていない。彼にしてみれば、どこが悪いと言うのか?

 

ということでしょう。

 

これが、理事長の理屈です。

 

一見、筋が通っていますね。確かに利益を上げています。悪い事等なにもしていません。

 

法律に触れるようなこともしていません。

 

マネージャーとしての責任も全うしている。

 

いいじゃないですか?立派じゃないですか?

 

成長の罠

ここで少し考えてみてください。先ほど、成長モデルという話をしました。

 

理事長の考え方はこれに則っています。

 

しかし、レストランのオーナーはこの考え方とは全く違った方向性を持っています。

 

何が決定的に違うのでしょうか?決定的に違うのは、

 

一方は顧客のことを懸命に考えた戦略目標であるのに対し、

 

理事長の戦略は利益に集中した戦略目標です。

 

正しいとか?間違っているということではありません。

 

あなたや多くのマネージャーが成長病に罹患しているかもしれません。

 

成長しなければならないという強迫観念に攻め立てられている。

 

しかし、これだけははっきり言えます。

 

ビジネスの中心は供給側から顧客に移ってきているということです。

 

つまり、これからは誰を大事にするのか?決まっています。顧客です。

 

今は顧客革命が起きています。

 

顧客の重要性について、何度も指摘していますが基幹病院とのパイプさえ確立しておけば安泰と考えていま

 

せんか?あるいは、ただ送迎をして患者を囲い込みさえすれば安泰と考えていませんか?

 

顧客がビジネスを変えています。近年、様々な企業の不祥事がありました。

 

不二屋、赤福、吉兆、マクドナルド等等。本当に食品業界は混乱しています。

 

そして、不正が世の中に露出した途端に消費者は一斉に不買に走りました。

 

ある企業は倒産してしまいました。

 

顧客のパワーはそれほどまでに強大です。

繰り返しますが、いま世の中で起きている現象は顧客革命なのです。

 

“透析医療の組織論” への1件のコメント

  1. Mr.0468 より:

    とても納得です。

    患者さんを抱えることは存続するためにとても大切ですが、それと平行して医療や説遇の質が伴わなければならないと常々考えています。

    今までを振り替えると、よっぽど個性の強い患者さんでなければ転院をしません。

    それに甘んじることなく、スタッフ一同が声なき声に敏感になり、つねに成長しなければいけません。

    我々も当然ながら『不味いラーメン屋には二度と行きません。』

    そのようなことがいつか透析施設にも起こりうると思っています。

    変化や進化なきサービスのままで、患者さんたちが当たり前のリピーターになってくれると考えていたら組織は衰退していくでしょう。

    今回のテーマもとても納得させていただきました。

    ありがとうございました。

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