大学教授が動いた─―セルフ透析は次世代医療の証

先日、私たちがプロデュースしたセルフ透析施設に、ある大学病院の教授が視察にいらっしゃいました。

一見単なる施設見学に映るかもしれません。

しかし、一般的に考えると、大学教授が、一透析クリニックに視察に来るということ自体があり得ないことなのです。そしてこの出来事は、

私たちにとっても、日々セルフ透析を選んでいる患者さんにとっても、極めて重要な意味を持っているのです。―――写真:医療法人社団 Oasis Medical COO 櫻堂 渉(左)と日本大学医学部腎臓高血圧内分泌内科 阿部雅紀 主任教授(右)

アカデミズムの代表者がわざわざ視察に来たワケ

なぜなら、大学教授という存在は、単なる医師の一人ではなく、アカデミズム(学問界)の代表者、医療界の象徴的権威だからです。

そのような立場にある方が、わざわざ足を運び、患者さんの姿を目の当たりにし、心から感銘を受けた、と言うのです。

これは、皆さんが日々実践していることが、

学問的にも社会的にも無視できないほどの価値を持っていると示された瞬間でした。

 すでにご案内しているとおり、私たちのセルフ透析は「2024年グッドデザイン賞」を受賞しました。

グッドデザイン賞は、一般的にパナソニックやかつてのシャープなど、大企業が受賞するものと考えられてきました。

それが、私たちalba labの提案したセルフ透析が社会に有益な結果を生み出す可能性を持ったシステムとして評価されたのです。

つまり、医学会より先に社会から評価されたのです。

学会が新しいものを嫌う理由

ここで少し歴史を振り返ってみましょう。

人類の医療や科学の進歩は、常に「革新」と「抵抗」のせめぎ合いでした。

ガリレオ・ガリレイは地動説を唱え、教会と学会から激しい批判を受けました。

セメルヴェイスは出産時の手洗いを提唱しましたが、同僚の医師から嘲笑され、精神病院に追いやられました。

ルイ・パスツールは微生物学を切り拓きましたが、当初は「荒唐無稽」と退けられました。

チャールズ・ダーウィンも進化論を発表した際、宗教界と学会から同時に攻撃されました。

共通するのは、新しい考えは必ず既存の秩序を揺るがすため、権威から排斥されるということです。

学会は本来、真実を追求する場であるはずですが、現実には「既存の秩序を守る組織」としての側面が強く働きます。

この背景を理解しているからこそ、私たちはこれまで学会に積極的に広報をしてきませんでした。

なぜなら、まだ形が整う前に「異端」と決めつけられれば、潰され、それは患者の利益に反するからです。

セルフ透析も最初は異端視されるかもしれませんが、歴史的に見るとすべての真実はそうして広がりました。

それでも教授は足を運んだ

そんな状況の中で、大学教授がセルフ透析に関心を示し、実際に見学に訪れた。

これは単なる「知的好奇心」ではありません。

教授自身、透析医療が衰退期を迎えていることを理解しています。

かつては医療の中で重要な位置を占めていた透析が、社会の中で立場を失い始めているのです。

患者数は徐々に減少し、医療者の人手不足は深刻化し、病院の経営も苦境に喘いでいる。

教授の先輩・後輩にあたる透析クリニックの院長たちも、例外なくこの難局に直面しています。

教授は、その現実をよく知っているからこそ、「何か新しい突破口はないか」と探していたのです。

そして、セルフ透析という革新的な取り組みに出あい、「これが未来を拓く可能性がある」と感じ始めています。

教授を動かしたのは「患者の姿」

見学当日、最も教授の心を動かしたのは、最先端の機器や豪華な設備ではありませんでした。

彼の心を揺さぶったのは、セルフ透析を実践している患者さんの姿そのものでした。

•自分の体調を冷静に把握しながら、落ち着いて透析を進める姿

•ベッドサイドでノートパソコンを開き、会議に参加する姿

•透析後に軽やかに立ち上がり、「午後は仕事に戻ります」と笑顔で語る声

その姿は、従来の「透析患者=病院に縛られ、自由を奪われた存在」というイメージを完全に覆していました。

そして教授は静かにこう言いました。

「これこそ、患者中心の医療だ…」

その言葉には、学問的な理屈を超えた、生々しい実感が込められていました。

社会的証明としての意味

皆さんに伝えたいのは、この出来事が「社会的証明」になるということです。

社会的証明とは、「多くの人や権威ある人が認めることで、自分の選択に自信を持てるようになる」

という心理的な現象を指します。

例えば、ある商品を買うとき、「専門家がおすすめしています」と言われると安心しますよね。

それと同じことが、いま皆さんの前で起きています。

大学教授という学問界の権威が、あなたたちの姿に感動し、価値を認めている。

つまり、あなたがセルフ透析を選び、実践していることは、社会的に裏付けられた選択だということです。

あなたは孤立していない

透析を続けていると、時に孤独を感じることがあります。

「周りの人は普通の生活をしているのに、なぜ自分だけがこんな制約を…」

「この選択は正しいのだろうか?」

そんな疑問が心をよぎることもあるでしょう。でも、どうか忘れないでください。

あなたは決して孤立しているわけではありません。

むしろ、あなたの選択は大学教授という社会的権威によって認められ、

未来を切り拓く価値があると評価されているのです。

未来の透析医療は、あなたから始まる

大学教授の訪問は、単なるイベントではありませんでした。

「新しい医療がアカデミズムに認められつつある」という歴史的な瞬間でした。

私たちは、セルフ透析を通じて患者の自由と誇りを取り戻すことを目指しています。

そして今、その姿に大学教授までもが感銘を受けています。

どうか自信を持ってください。セルフ透析を選び、日々を生き抜くあなたは、

すでに新しい医療の主役です。

未来の透析医療は、あなたから始まります。

——————-医療法人社団 Oasis Medical月刊誌 【OASIS HEART】11月号 Vol.114 ~選択の科学Ⅲ―⑪より~

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